「北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」

2017年10月21日(土)~2018年1月28日(日) 東京、上野の国立西洋美術館で開催される同展の内覧会に行ってみました。 公式サイト

 たしかに印象派に江戸の浮世絵が大きな影響を与えたことは、美術の教科書にも載っているし、テレビの美術番組でも見聞きした。でも、教科書に載っている絵は、ゴッホによる広重の「亀戸梅屋舗」、「大はし あたけの夕立」の模写や、モネによる振袖を着て扇を持つ女性の油絵だった。しかし北斎?「冨嶽三十六景」が西洋に影響を与えたのだろうか?

 この程度の知識しかない私に、本展はどう映るのだろうか。

意外!元ネタは北斎漫画

 北斎の絵をヨーロッパに最初に紹介したのは、シーボルトらしい。彼の著作「日本」に、北斎漫画からとった絵を使っている。その後、様々な日本紹介の書物に北斎漫画からとられた絵が使われている。その理由は、彼が市井の人々から禽獣虫魚、山川草木、鬼神まで森羅万象を描き綴ったかららしい。いわば西洋人にとって手軽なビジュアル版日本百科事典だったのだろう。

 展示の1室目は、「北斎の浸透」と題した展示。こうした書籍にとられた絵と元の北斎漫画が展示されている。

 やがて、北斎の作品を見た芸術家たちが興味をもち、模写するようになる。そのような模写もここに展示されている。

(左)葛飾北斎『北斎漫画』十一編(部分) 刊年不詳 浦上蒼穹堂 (右)エドガー・ドガ《踊り子たち、ピンクと緑》 1894年 パステル、紙(ボード裏打) 66×47cm 吉野石膏株式会社(山形美術館寄託)
(左)葛飾北斎『北斎漫画』十一編(部分) 刊年不詳 浦上蒼穹堂 (右)エドガー・ドガ《踊り子たち、ピンクと緑》 1894年 パステル、紙(ボード裏打) 66×47cm 吉野石膏株式会社(山形美術館寄託)

展示室にテーマあり。

第2室からは、北斎の浮世絵と、それに影響を受けた芸術作品が並んで展示されている。その仕方には、年代順、作家ごとなどいろいろあるだろう。ここでは2「北斎と人物」、3「北斎と動物」、4「北斎と植物」、5「北斎と風景」そして6「波と富士」と対象をテーマに分類された展示室が続く。これら展示室は、そのテーマごとに壁の色が違うので、作品に気を取られていても、壁の色が変われば「あ、テーマが変わったな」と気づける。

 さて、北斎と人物といえば、これは見逃せない。ドガの《踊り子たち、ピンクと緑》。ところが、これに対応する北斎漫画の絵は関取とおぼしき下帯姿の男!対極とも受けとれるギャップに、内心笑ってしまった。むしろ、西洋の芸術家が模写ではなく、北斎を消化して自らの糧としたことを賞賛すべきなのだろう。ほかの作品もそれぞれ北斎からイマジネーションを受け取り創作したと見てとれるものばかり。目立つ大きい絵に、メアリー・カサットの《青い肘掛け椅子に座る少女》がある。だらしなく座る少女を描いている。それまでの西洋絵画は、きちんとした姿勢の人物を描いてきたのに対し、北斎があらゆる姿勢・姿態の人物を描いていることから、北斎の影響があると推測されるそうだ。

(左)エドガー・ドガ《競馬場にて》1866-68年 オルセー美術館、パリ (右)テオフィール・アレクサンドル・スタンラン ポスター「スタンランの素描と油彩画展」1894年 サントリーポスターコレクション(大阪新美術館建設準備室寄託)それぞれの左側に葛飾北斎 『北斎漫画』六編 1817(文化14)年 浦上蒼穹堂と、『三体画譜』 1816(文化13)年 浦上蒼穹堂
(左)エドガー・ドガ《競馬場にて》1866-68年 オルセー美術館、パリ (右)テオフィール・アレクサンドル・スタンラン ポスター「スタンランの素描と油彩画展」1894年 サントリーポスターコレクション(大阪新美術館建設準備室寄託)それぞれの左側に葛飾北斎 『北斎漫画』六編 1817(文化14)年 浦上蒼穹堂と、『三体画譜』 1816(文化13)年 浦上蒼穹堂

動物好きには魅力の部屋!

 西洋美術には、日本美術がもつ花鳥画をはじめとする自然への親しみ深さは、元々なかったそうだ。動物画は狩猟画から派生したと聞けば、彼我の立ち位置の違いに、ため息が出る。

 しかし、北斎の影響を受けた画家たちは、より親しみをもった視点で動物を描き始めたようだ。「北斎と動物」の展示室には絵画作品だけでなく、装飾工芸品も展示されている。人気のガレのガラス器も。これも一見の価値がある。

 

(左)クロード・モネ《菊畑》 1897年 個人蔵 (右)葛飾北斎《菊に虻》 1831-33(天保2-4)年頃 シカゴ美術館
(左)クロード・モネ《菊畑》 1897年 個人蔵 (右)葛飾北斎《菊に虻》 1831-33(天保2-4)年頃 シカゴ美術館

動物とくれば、植物でしょ!

 そうだったのか!と思ったのは、北斎以前、西洋絵画で植物は静物画として描かれ、それは自然から切り離されたものだったということ。一方、日本では地面に根を張って生きている花が描かれている。実際に生きている植物が絵画のテーマになったのは、北斎の影響を受けてからなんですね!ここには絵画もあるが、工芸作品に描かれた植物も充実している。

(右)葛飾北斎《冨嶽三十六景 東海道程ヶ谷》 1830-33(天保元-4)年頃 横大判錦絵 25.7×37.8cm ミネアポリス美術館 Minneapolis Institute of Art, Bequest of Richard P. Gale 74.1.237 Photo: Minneapolis Institute of Art (左)クロード・モネ 《陽を浴びるポプラ並木》1891年 油彩、カンヴァス 93×73.5cm 国立西洋美術館(松方コレクション)
(右)葛飾北斎《冨嶽三十六景 東海道程ヶ谷》 1830-33(天保元-4)年頃 横大判錦絵 25.7×37.8cm ミネアポリス美術館 Minneapolis Institute of Art, Bequest of Richard P. Gale 74.1.237 Photo: Minneapolis Institute of Art (左)クロード・モネ 《陽を浴びるポプラ並木》1891年 油彩、カンヴァス 93×73.5cm 国立西洋美術館(松方コレクション)

風景はこれに尽きる!

 私のような者にも、左のモネのポプラ並木は北斎の松並木の影響をうけているとわかる。リズミカルに並んだ並木、こんな描きかたは西洋の伝統的絵画にはなかったそうだ。大きな木が近景にあったり、地平線が画面の上にあったり、意表をつく構図や色などは、北斎の影響という。

 そんなことを聞くと、北斎以前の西洋画ってものすごく窮屈。煮詰まったところで出口はないかと探している芸術家が出会ったのが、北斎なんだろうな。もう、パラダイム転換だったに違いない。そんなことを思いつつ、次の展示室へ

(左)クロード・モネ《 ノルウェーのコルサース山》1895年 マルモッタン・モネ美術館、パリ (右)クロード・モネ《ノルウェーのコルサース山》1895年 オルセー美術館、パリ  
(左)クロード・モネ《 ノルウェーのコルサース山》1895年 マルモッタン・モネ美術館、パリ (右)クロード・モネ《ノルウェーのコルサース山》1895年 オルセー美術館、パリ  

波と富士

 最後の展示室は、「波と富士」。《冨嶽三十景 神奈川沖浪裏》がすぐ脳裏に浮かぶが、もうひとつ、『富嶽百景』二編の《海上の不二》も西洋の芸術家を強く魅了した表現ということだ。西洋美術史に明るくない私だが、そういえば、波をテーマの芸術作品ってこの時代以前の西洋ではとんと聞かないな。こういう視点が無かったことに限れば、西洋も日本も鎖国していたに等しい。芸術の面でも交流は大事だなと思う。

 ここも絵画だけでなく、磁器などの工芸品も展示されている。富士といえば、西洋人も富士山にあこがれたようで、富士山に見立てた山を描いた作家もいるようだ。連作というものも無かったところ、「冨嶽三十六景」そのものに着想を得て、『エッフェル塔三十六景』を発表した作家もいる。印象派の重鎮、セザンヌが日本美術に関心をもっていたか議論があるそうだが、並べられると、《サント=ヴィクトワール山》に北斎の影響があったのではと思われる構図のものがある。

 各展示室を通り、出口に近づく頃には、西洋の近代芸術は、北斎なくして語れないじゃないか!と思うようになった。北斎が起爆剤になってパラダイム転換を興し、現代美術までその流れは続く。そんな印象だ。もちろんスーッと眺めていっても楽しめる。美術館を出る頃には爽やかな気持ちになる、そんな美術展だった。

葛飾北斎《冨嶽三十六景 駿州片倉茶園ノ不二》1830-33(天保元-4)年頃 横大判錦絵 24×37.2cm オーストリア応用美術館、ウイーン MAK - Austrian Museum of Applied Arts / Contemporary Art, Vienna Photo: ©MAK / Georg Mayer

ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山》1886-87年 油彩、カンヴァス 59.7×72.4cm フィリップス・コレクション、ワシントンD.C. The Phillips Collection, Washington, D.C.

ショップには、こんなものが並んでいました。ほかにもいろいろありますよ!

開催概要

展覧会名  北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃

会  期  2017年10月21日(土)~ 2018年1月28日(日)

会  場  国立西洋美術館(東京 上野公園)公式サイト ツイッター公式アカウント

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