モロッコ産の小型カモノハシ恐竜(ハドロサウルス科:ランベオサウルス亜科)と北アフリカのマーストリヒチアン期後期の恐竜多様性

解説

新種の恐竜: この論文では、モロッコの地層から発見された新種の恐竜、ミンカリア・バタ (Minqaria bata) という名前がつけられました。属名は、アラビア語‘minqar’ くちばしの意味、種小名はアラビア語 ‘bata’ アヒルの意味です。この恐竜は、カモノハシのようなくちばしを持つカモノハシ恐竜の仲間で、その中でもランベオサウルス亜科というグループに属します。この恐竜は、全長約3.5メートルとカモノハシ恐竜としては小さく、頭骨の一部と歯が見つかりました。

 

カモノハシ恐竜の多様性: この論文では、ミンカリア・バタの他にも、モロッコの地層からカモノハシ恐竜の上腕骨と大腿骨が見つかりました。これらの骨は、ミンカリア・バタよりも大きく、別の種類のカモノハシ恐竜である可能性が高いと考えられます。これらの発見は、モロッコにはカモノハシ恐竜が多様に存在していたことを示しています。

 

カモノハシ恐竜の分布: この論文では、ミンカリア・バタと他のモロッコのカモノハシ恐竜が、ヨーロッパに生息していたカモノハシ恐竜のグループ、アレニサウルス族と近縁であることを示しています。これは、カモノハシ恐竜がヨーロッパからモロッコに渡ってきたことを意味します。しかし、モロッコとヨーロッパの間には深い海が広がっていたので、どのようにして渡ったのかは不明です。おそらく、ヨーロッパ・アフリカ間の陸橋の利用や海流に乗って浮かんだり泳いだりしたのでしょう。

 

研究の意義: この論文は、カモノハシ恐竜の進化と分布について新しい知識を提供しています。カモノハシ恐竜は、北アメリカやアジアでは大きくて多様なグループでしたが、ヨーロッパやモロッコでは小さくて特殊なグループになりました。これは、環境や競争相手の違いによってカモノハシ恐竜が適応した結果だと考えられます。また、カモノハシ恐竜が海を渡って移動したことも、恐竜の生態について興味深い事実です。この論文は、恐竜の多様性や分布のパターンを理解するのに役立ちます。

 

 

要旨

 白亜紀後期、北半球と南半球はそれぞれ異なる恐竜相を形成していた。ティタノサウルス類とアベリサウルス科がゴンドワナ大陸を支配し、ハドロサウルス科、ケラトプス類、ティラノサウルス類が北米とアジアを支配した。最近、モロッコのオウラド・アブドーン盆地のマーストリヒチアン期後期のリン鉱床から、ランベオサウルス亜科のハドロサウルス科、Ajnabia odysseus(アジュナビア・オディッセウス)が報告され、ローラシアとゴンドワナの間の分散が示唆された。ここでは、モロッコのリン鉱床から発見された新しい化石について報告し、北アフリカのマーストリヒチアン後期においてランベオサウルス亜科が高い多様性を獲得していたことを示す。頭骨は新種の小型ランベオサウルス亜科、Minqaria bataを代表する。大きさはAjnabia odysseusに似ているが、腹側に位置する頬骨突起の位置や歯列の形状などで異なる。体長は3.5mほどと小さいが、癒合した脳頭蓋から成体になっていたことがわかる。上腕骨と大腿骨は体長6mほどの大型ハドロサウルス類のもので、少なくとも3種が共存していたことを示唆している。ヨーロッパとアフリカのハドロサウルス科の多様性は、鳥盤類の多様性の低さを利用してランベオサウルス亜科が多様化し、分散が主導した放射を示唆している。しかし、アフリカのランベオサウルス亜科は北米やアジアのハドロサウルス科に比べて小型であり、これはおそらくティタノサウルス類との競合によるものであろう。ハドロサウルス科はアフリカ東部からは見つかっていないことから、モロッコのハドロサウルス科は島嶼部特有の動物相の一部であり、島嶼部の放射を代表しているのかもしれない。

 

論文オープン

Longrich, N.R., Pereda-Suberbiola, X., Bardet, N. et al. A new small duckbilled dinosaur (Hadrosauridae: Lambeosaurinae) from Morocco and dinosaur diversity in the late Maastrichtian of North Africa. Sci Rep 14, 3665 (2024). https://doi.org/10.1038/s41598-024-53447-9

参考 Ajnabia odysseus 記載論文

 Longrich, Nicholas R.; Suberbiola, Xabier Pereda; Pyron, R. Alexander; Jalil, Nour-Eddine (2021). The first duckbill dinosaur (Hadrosauridae: Lambeosaurinae) from Africa and the role of oceanic dispersal in dinosaur biogeography 

https://doi.org/10.1016/j.cretres.2020.104678

 

論文要約(一部重複しています)

●Introduction(序論):

背景: 白亜紀末のアフリカやアフロ・アラビア大陸の恐竜は、北アメリカやアジアのものと比べてよく知られていない。これまでに発見された恐竜は、ゴンドワナ大陸の他の地域と類似したチタノサウルス類やアベリサウルス類が主であった。しかし、オマーンやアンゴラから発見されたハドロサウルス類の近縁種や、モロッコのリン鉱床から発見されたランベオサウルス亜科のAjnabiaという種は、より複雑な系統関係を示唆している。

目的: 本論文では、モロッコのリン鉱床から発見された新たなランベオサウルス亜科の化石を報告し、その形態学的特徴と系統的位置づけを行う。また、白亜紀末の北アフリカの恐竜の多様性と古生物地理学について議論する。

方法: モロッコのリン鉱床は、白亜紀末から始新世初期にかけて、大西洋の東縁にあった湾入海で堆積したリン酸塩の砂、泥、石灰岩からなる。リン鉱床は、白亜紀の第三層と、始新世の第二層、第一層、第零層に分けられる。第三層は、サメの歯や化学的指標に基づいてマーストリヒチアンとされる。第三層の上部は、マーストリヒチアン末期に相当し、K-Pg境界の約100万年前までさかのぼる。第三層は、豊富で多様な海洋性の脊椎動物の化石が産出する。恐竜の化石は、ティタノサウルス類、アベリサウルス科、ランベオサウルス亜科など、ごく稀に見つかる。

結果: 新たに発見されたランベオサウルス亜科の化石は、頭骨の一部と四肢の一部からなる。頭骨の一部は、Minqaria bataという新属新種に属することが判明した。Minqaria は、Ajnabiaと同じく小型のランベオサウルス亜科であるが、上顎骨や歯の形状などで異なる。Minqariaは、ヨーロッパと北アフリカに分布するランベオサウルス亜科のグループであるアレニサウルス族に属すると推定される。四肢の一部は、MinqariaAjnabiaよりも大型のランベオサウルス亜科に属すると考えられるが、種の同定はできなかった。

 

結論: モロッコのリン鉱床から発見されたランベオサウルス亜科の化石は、白亜紀末の北アフリカにおける恐竜の多様性と進化の証拠である。ラムベオサウルス亜科は、ヨーロッパから海を渡って北アフリカに到達し、その後に多様化したと考えられる。ランベオサウルス亜科は、北アフリカでは他の草食性の恐竜と競合しなかったため、小型化や形態の変化を起こした可能性がある。一方、北アメリカやアジアでは、ランベオサウルス亜科は大型化や多様化を遂げたが、最終的に絶滅した。これらの地域差は、恐竜の多様性や絶滅に地域的な要因が影響したことを示している。

 

●Discussion(議論):

著者たちは、モロッコのマーストリヒチアン期の地層から新種の小型のカモノハシ恐竜 Minqaria bata を発見し、アフリカにランベオサウルス亜科が存在したことを裏付けた。

Minqariaは、アフリカで最初に発見されたランベオサウルス亜科のAjnabia odysseusとは異なる特徴を持つが、ヨーロッパに分布するアレニサウルス属(Arenysaurini)というクレードに属するとされる。

モロッコの地層からは、MinqariaAjnabiaの他にも、より大型のランベオサウルス亜科の化石が見つかっており、アフリカではランベオサウルス亜科が多様化したことが示唆される。

ランベオサウルス亜科は、アジアで初めて進化し、北アメリカにパラサウロロフス族とランベオサウルス族という二つのグループが分散した。その後、アジアからヨーロッパに分散したランベオサウルス亜科が、カンパニアン期かマーストリヒチアン期にアフリカに到達したと考えられる。

アフリカのランベオサウルス亜科は、北アメリカやアジアのものに比べて小型である。これは、アフリカには他の草食性の恐竜がほとんどいなかったため、ランベオサウルス亜科が低い競争圧の下で多様なニッチを占めた可能性がある。また、アフリカのランベオサウルス亜科は、ヨーロッパのものと同様に、白亜紀末に高い多様性を示した。

 

これらの発見は、恐竜の多様性や分散が地域的に異なることを強調しており、海洋分散によってヨーロッパやアフリカなどの孤立した島に恐竜が到達したことを示唆している。

 

●Conclusions(結論): 

モロッコのリン鉱床から発見された小型のカモノハシ恐竜(ハドロサウルス科:ランベオサウルス亜科)は、Minqaria bata という新属新種に命名された。この恐竜は、ヨーロッパと北アフリカに分布したアレニサウルス族(Arenysaurini)というランベオサウルス亜科のクレードに属すると推定される。

モロッコのリン鉱床からは、他にも大型のランベオサウルス亜科の化石が発見されており、少なくとも3種類のカモノハシ恐竜が共存していたことが示唆される。これは、ランベオサウルス亜科が北アフリカにおいて多様化したことを反映していると考えられる。

ランベオサウルス亜科の北アフリカへの分散は、白亜紀末の海面低下に伴う陸橋の形成によって可能になったと推測される。北アフリカのカモノハシ恐竜は、他のゴンドワナ大陸の恐竜とは異なる特徴を持っており、孤立した島嶼の放散進化の例として解釈できる。

 

北アフリカのカモノハシ恐竜は、北アメリカやアジアのカモノハシ恐竜に比べて小型である。これは、競合する植物食恐竜が少なかったことや、ティタノサウルス類との競争によって引き起こされた可能性がある。北アフリカのカモノハシ恐竜の発見は、恐竜の多様性や分布が地域的に異なっていたことを示している。

 

●Methods(方法): この章では、本研究で用いた化石の採集地や地質学的背景について説明しています。化石はモロッコのオウラド・アブドゥン盆地のリン鉱床から産出したもので、上部クーシュIII層に属し、マーストリヒチアン後期の年代を持つ。化石はマラケシュ自然史博物館に収蔵されており、比較資料として他のカモノハシ竜の標本や文献を参照した。化石の記載には、形態学的特徴や測定値、歯の形質分析などを用いた。系統解析には、既存のデータセットに新たな化石の形質を追加し、最大節約法と最尤法でクラドグラムを作成した

リンク

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