2016年

3月

20日

恐竜博2016 記念講演から クリスティアーノ・ダル・サッソ博士

2016年3月8日に開催された、恐竜博2016の記念講演からクリスティアーノ・ダル・サッソ博士の講演要旨です。

A New look for Spinosaurus スピノサウルスについての新しい見方

 

 本日はご来場ありがとうございます。恐竜は、大型から小型なものまで様々な大きさのものがある。最近の事例では、私が出会ったスキピオニクスは、生まれて10日で死んでしまった赤ちゃんの恐竜。その一方、大人になるとティラノサウルスより大きい、スピノサウルスという恐竜もある。スキピオニクスは、今までなかったほど内臓が良好に保存されていたので有名になった。一方、スピノサウルスも非常に大きいということで有名になったが、同時に、非常に変わった竜を思わせるような形をしていることでも、よく知られている。最近はそれだけでなく、水生生活に適応していることもわかってきた。

 

 スピノサウルスが最初に知られたのは100年前のことだが、ドイツの古生物学者、シュトローマーが1922年、エジプトで発掘をした時からになる。そこで発見された恐竜は、非常に独特の細長い下顎をしていて、円錐状の歯が生えていた。さらに脊椎から非常に長い神経棘が出ていたが、その中には人の背丈より高いものもあった。そこで、スピノサウルスと名付けられた。棘のある爬虫類という意味。残念ながらこの標本は、第二次世界大戦時に所蔵していたミュンヘンの自然科学博物館が爆撃にあい、破壊されてしまった。

 

(新たな標本が)発見されるのは数十年後になる。1975年、モロッコで発見されたが、その科学的意義は認識されず、長い間イタリアの個人コレクションとして保存されていた。’90年代に、ミラノ自然史博物館がこの標本をモロッコから入手した。現在では重要な化石の輸出が法律で禁止されているが、当時は法制定前だった。私はイタリアや外国の同僚とともにこの標本(上顎)の研究をしてきた。非常に長く1mもある。今回恐竜博2016で展示されている。そこで、この上顎標本をシュトローマーの下顎標本と(対照して)調べたが、下顎の歯が上顎の前の部分と噛み合わさるということがわかった。しかし、他のタイプの恐竜と比べて口先から離れた場所に鼻孔があることが、特に特徴的だと思った。実際に、顎の前部は鼻と全く接触していない。

Cristiano Dal Sasso , Simone Maganuco , Eric Buffetaut & Marco A. Mendez (2005)

New information on the skull of the enigmatic theropod Spinosaurus, with remarks on its size and affinities, Journal of Vertebrate Paleontology, 25:4, 888-896 リンク

 それから3年後、私はモロッコで活動していた、あるイタリアの地質学者からこの写真をもらった(床にスピノサウルスの骨が並んでいる)。大変驚いた。シュトローマーの頃の古いセピア色の写真ではなく、電子ファイルで写真を見ることが出来たことに感銘を受けた。これは現地の遊牧民たちがモロッコで発掘していたもので、実際にモロッコの市場に出回っていた骨だ。一部の骨はイタリアの地質学者が入手し、カサブランカ大学が一部の小さな骨を入手していた。この写真の骨の真ん中に黒い線があるのを覚えておいてください。あとで黒い線の話が出てくる。その後も、イタリアの地質学者は、この骨を集めていたが、それから2年間、私は彼にこの骨がいかに重要か説明してきた。このような骨格が発見できるということは、大変なことだと説明してきた。遂に彼も納得して科学のために寄付してくれることになった。それから何人かの同僚を集めて、研究することにした。様々な機関が所有していた骨をまとめて、最終的には元々あった国に戻せるようにしたいと思った。

 

 そこでこちら(の写真)に出ているニザール・イブラヒムはドイツ系モロッコ人ですが、まさに正しいときに正しい場所にいた適任者だったと思う。彼はシカゴ大学の学生だった。ポール・セレノの学生だったが、セレノはナショナルジオグラフィック協会とつながりがあったので、さらに良かったと思った。私たちはスポンサーも探していたからだ。 シカゴ大学も、スコミムス標本を含む様々な骨のコレクションを持っていた。さらに私たちはスピノサウルスの骨格を完成させるために、その骨を必要としていた。もちろん他にも必要な骨はあった。例えばこれはイリテーターの頭骨の後部だが、これもその一つだった。ナショナルジオグラフィック協会がスポンサーになったので、私たちは再びモロッコに行くことにした。イブラヒムはアラビア語を話せたので、実際に骨が発見された場所を発掘した遊牧民から教えてもらうことができた。その場所に案内してもらい、一番長い骨を発掘するために掘った穴を見せてもらった。私たちはその地域を見て、さらに遊牧民が発掘した場所を再び調査し、彼らが掘り起こした土をふるいにかけた。土から出た骨にはミラノやカサブランカ大学の骨と全く同じ黒い線があったので、ここが正しい場所だと確認できた。また、バラバラになった骨のいくつかをつなげてみて、さらに神経棘をいくつか見つけることができた。歯も見つけることができた。これらは全て1体のスピノサウルスの骨だった。

 

 私たちはこれらの骨全てをシカゴ大学に輸送し、骨を一つずつスキャンした。それらを3Dで組み立てて成体骨格を組み立てようと思ったので、ミラノにある頭骨のサイズを参照して組み立ててみた。他の博物館が保有している骨も参照した。例えば脊椎骨など他の骨も必要だった。3Dで形状のガイドができたので小さな破片も使って3Dのモデリングができた。何か月にもわたり、シカゴ大学とミラノ間で何千通ものEメールのやりとりをして、完全なスピノサウルスの骨格の3Dファイルを入手することができた。そして、そのファイルから初めて実物大の骨格を作成した。その結果、スピノサウルスは他の大型恐竜、T-REXよりも大きいことがわかった。2014年、初めてワシントンで展覧会をする時の広告にナショナルジオグラフィックが使った実物大のモデルは、イタリアのジオモデルという会社が作成した。

 さらにその時に私たちは研究成果を発表した。つまり、獣脚類で水生あるいは半水生動物だったという事も、この時発表した。詳しく説明する時間はないが、体全体のプロポーションを見ても非常にユニークであることがわかる。頸や胴体が非常に長く、重心のかかる場所を考えても2足歩行であった可能性が考えられる。

 

 ではまず、ティラノサウルスの頭蓋と比較してみたい。スピノサウルスはワニのような口をして長い顎がある。鼻孔が真ん中くらいから後の後退した位置にある。他の獣脚類では鼻孔は顔の前の方にある。歯も普通は扁平で、私たちが食事に使うナイフのように端がギザギザになっている。一方スピノサウルスの歯は、円錐状の歯でしかも上下の歯がうまく噛み合わさるようになっているので、魚のような滑るエサでもうまく噛めるようになっている。特に興味深い特徴は、顎の先端にこのように大きな孔が沢山あいている事だ。ワニにも同じ構造があって、上顎と下顎の先端に水圧を感じることができるようになっている。ワニの場合、水圧を感じる受容器の内部を見ると、細かい神経のネットワークになっていて、三叉神経に接続している。三叉神経は3分岐しているが、上顎にも出ているように、非常に細かいネットワークになっている。

 

 そこで、ミラノの標本のCTスキャンをし、内部にワニに似ているところがないか、調べてみた。0.3㎜ごとに2460切片に切った。しかし、まだ手作業でクリーニングをしなければならない部分もあった。というのは、孔の中に堆積物が残っている部分があったからだ(スライドで赤で示す所が孔に詰まっている部分)。その後、スピノサウルスの顎内部をこのような透明な形で見ることができた。(スライド)先端に黄色い網目状のところがあるが、これはワニと全く同じだった。これはスピノサウルスの神経血管系のネットワークだった。研究結果によると、ワニの場合吻部を例えばテープで覆うと目隠しをされたのと同じような状態になることが、わかっている。水中で、エサとなる他の動物の動きを検知できないので、エサを見つけることができないそうだ。また、最近の研究結果によると、例えばプリオサウルスのような大型水生爬虫類は、違う方法でエサを探していたそうだ。プリオサウルスにも同様に長い顎と神経血管系があることが発見された。ただ違いがあって、この神経網は孔の部分と歯の両方に見られる。スピノサウルスの場合は、神経のネットワークは顎の部分だけにあるので、スピノサウルスにとって、これが非常に重要な役割を果たしていたという事がいえる。スピノサウルスの神経血管系は、ワニと同じくらい発達していたと思われる。ソナーのように水中でエサを探すのに使われたと思われる。

 

 (スライド)これがその一つの例として描かれた画で、2016年のエキスポで提示されている。スピノサウルスのもう一つの興味深い点は、アヒルのように足を使って水を掻いていたのではないかと思われる。そこから、水中で生活をしていたと思われる訳だ。それは、尾と大腿骨を繋いでいる筋肉からわかった事だ。これは後ろ足を後に動かすために使われた筋肉で、さらにこの足も水中で生活しやすい形になっていたと思われる。現在の水鳥のように水かきがあったと思われる。おそらくスピノサウルスは後ろ足を交互に掻きながら水中を移動していたと思われる。ただ、水の外では問題があったようだ。動画がうまく映るかどうか試してみたいと思うが、スピノサウルスの体質量の重心の位置に問題があり、直立することができなかった可能性がある。スピノサウルスの歩行のシミュレーションだ。前足の爪にダメージを与えないために(ナックルウォーク)こういう歩き方をしている。

 また、このように体のプロポーションに奇妙な不思議な点があるが、また、シュトローマーが保存していた骨で、”Stromer Spino B” と書かれた骨があるが、これは彼が十分に研究せずに保存していたものだ。エジプトで発見されたものだが、これを見ても同様なプロポーションであるという事がわかる。”Stromer Spino B”が黄色がかった色、新しい標本がグレーの部分だが、類似していることがわかる。私たちが研究している標本は1体のものと判っているが、シュトローマーは別の標本も発見していたことがわかる。理論的あるいは統計的には違う場所で発見されたものであれば同一個体でないが、同じ部位の同じプロポーションの骨が発見されているので、スピノサウルスはこういう体をしたものだという事が言える。即ち、頸部や胴が長く後ろ足が短い体形だったと言える。

 

 また水生動物だったということは特に長骨の断面組織を研究することでわかる。これが顎の骨や肋骨の断面だ。一般的に獣脚類では骨の中が空洞になっているが、スピノサウルスには空洞が無い、あるいは余りにも空洞が小さいので骨の中心部だけにあいている。そこでグーグルで骨髄腔がある動物、無い動物を検索してみると、脊椎動物で進化の初期の過程で水生動物になった動物を見つけることができる。例えばこれはクジラの祖先でまだ後ろ足が少し残されている。スピノサウルスは骨をバラストの役割で使い、それで、鳥類に進化する獣脚類とは逆の方向に進化したと思われる。実際に、動物の中で骨髄腔が減少している、同様な骨の動物はペンギンで、これも潜水が得意だ。

 

  最後に、先ほど言った、骨の真ん中を通っている黒い線だが、神経棘の真ん中に黒い線があるが、断面を見ると密度がある血管が形成されている。一方、骨の表面には血管は全く見られない。従って、スピノサウルスの神経棘は、例えばステゴサウルスのプレートとは比較することはできない。スピノサウルスの血管は中の方だけにあるので、これは骨が成長するために利用されたものと言える。栄養のための血管であって、体温調節とは関係ない。従ってスピノサウルスの神経棘は飾りとして使われたのではないかと思われる。あるいは、この川は自分の縄張りだと知らせるために使ったのかもしれないし、メスを惹きつけるために使ったのかもしれないが、現時点では、それはわかっていない。

 

 なぜこのような形の恐竜が進化したのか。2つの理由が考えられる。1つは白亜紀北アフリカの河川には魚が豊富にいたので、こういった大型捕食動物にはエサがふんだんにあった。2つには、陸上で他の大型恐竜との競争を避けることができたため、河に向かったのではないかという事も考えられる。いずれ研究を進めれば、今の話で間違っている点があるという事もあるかもしれない。現在わかっている進化や体のプロポーションの事などをお話ししたが、研究が進むにつれ違うことがわかる可能性がある。しかし現時点で言える事は、少なくともスピノサウルスは半水生動物だったという事だ。ご清聴ありがとうございました。また研究に協力していただいた方々の名前をこちらに出したが、あまりにも多いので全員の名前を書ききれなかった。ありがとうございました。

リンク

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