古生代後期陸上生態系のダイナミズムの高まりを示す捕食性単弓類のエコモルフォロジー

解説

 この論文は、古生物学者たちが、古代の陸上生態系の進化について調べたものです。著者たちは、哺乳類の祖先にあたる動物である単弓類というグループの肉食性の種の顎の形や機能を分析しました。単弓類は、石炭紀後期から三畳紀初期にかけて、陸上の食物連鎖の頂点に君臨していました。その中でも、非哺乳類型の単弓類は、特に多様な顎の形態を持っていました。著者たちは、顎の形態から、単弓類の捕食方法や食性を推定し、それらがどのように時間とともに変化したかを追跡しました。その結果、以下のような発見がありました。

 

●単弓類の顎は、主に3つのタイプに分けられます。一つは、細長くて軽い顎で、小さくて素早い獲物を素早く噛んで捕まえるタイプです。もう一つは、頑丈で力強い顎で、大きくて強い獲物に深く噛みついて切り裂くタイプです。最後に、中間的な顎で、獲物をしっかりと掴んで引き裂くタイプです。

 

●単弓類の顎のタイプは、時代とともに変化しました。石炭紀後期には、細長い顎のタイプが多く、昆虫や魚などの小さな獲物を食べていました。しかし、ペルム紀に入ると、陸上の草食動物が多様化し、大きくなりました。それに伴って、単弓類も大きくなり、頑丈で力強い顎のタイプが増えました。これは、単弓類が、植物食動物に対抗するために、より強力な噛みつき能力を獲得したことを示しています。

 

●単弓類の顎のタイプは、単弓類の系統とも関係していました。基盤的な単弓類は、細長い顎のタイプが多く、哺乳類型の単弓類は、中間的な顎のタイプが多かったです。また、獣歯類というグループは、頑丈で力強い顎のタイプが多く、特にゴルゴノプス類というグループは、非常に大きくて鋭い牙を持っていました。これは、単弓類の系統が、陸上生態系の中で異なる捕食者の役割を担っていたことを示しています。

 

 この論文の研究意義は、以下のようにまとめられます。

●単弓類の顎の形や機能が、陸上生態系の進化に応じてどのように変化したかを、定量的に示した研究です。これにより、単弓類の捕食方法や食性の多様性や変遷が明らかになりました。

 

●単弓類の顎の形や機能が、単弓類の系統とも密接に関係していたことを、統計的に検証しました。これにより、単弓類の系統発生や進化の過程が、より詳細に理解できるようになりました。

 

●単弓類の顎の形や機能が、現生の爬虫類や哺乳類とは異なる特徴を持っていたことを、比較的に示しました。これにより、単弓類の顎の構造や運動が、どのように独自に進化したかが、より明確になりました。

 

※この論文では、ecomorphologyとは、個体の生態的役割とその形態的適応との関係を研究することを意味します。形態的という用語は、解剖学的な文脈で使われています。個体の形態と生態は、直接的または間接的にその環境によって影響を受けますが、ecomorphologyはその違いを明らかにしようとするものです。この論文では、特に形質のパフォーマンス(例えば、走行速度や咬合力など)や関連する行動、そして関係の適応度に関連付けて、形態と生態的ニッチの関係を分析することに重点を置いています。 また、機能的なアプローチと応用を科学に取り入れることを目指しています。

 

要旨

 陸上生態系は古生代、特にペルム紀を通じて大きく進化し、特に捕食者の間で新たな複雑性を獲得した。これらの捕食者の中で重要なのは、哺乳類以外の単弓類であった。捕食者のエコモルフォロジーは、獲物や競争相手との相互作用を反映し、肉食動物の多様性と生態系を支配する鍵となる。したがって、肉食性の単弓類は、古生代後期に形成された、四肢動物が支配する最初の複雑な陸上生態系における、より広範な生態学的進化についての洞察を与えてくれるかもしれない。形態学的・系統学的比較手法を用いて、石炭紀後期から三畳紀前期(307-251.2 Ma)までの肉食性単弓類の栄養形態図を作成した。ペルム紀前期から中期にかけて、単弓類の肉食形態に大きな形態機能的転換が見られ、より大きな咬合力や速度に特化した新たな摂食様式が追加されたことで、陸上の四肢動物の捕食者と被食者の相互作用が拮抗し、ダイナミズムを増していることを捉えた。新しい低肉食性・超肉食性単弓類のさらなる進化は、ペルム紀中期から後期にかけての陸上生態系の内在的な圧力と複雑化の始まりを浮き彫りにしている。

 

論文オープン Singh, S.A., Elsler, A., Stubbs, T.L. et al. Predatory synapsid ecomorphology signals growing dynamism of late Palaeozoic terrestrial ecosystems. Commun Biol 7, 201 (2024). https://doi.org/10.1038/s42003-024-05879-2

 

要約

Introduction(序論): この章では、古生代後期における陸上生態系の進化と複雑化について、非哺乳類型単弓類の捕食者としての役割と形態機能を探ることの意義と目的を説明しています。著者らは、形態計測学と系統比較法を用いて、石炭紀後期から三畳紀前期にかけての単弓類の顎の形態と機能の変化を追跡し、それらが捕食者としての摂食生態にどのように反映されているかを分析しています。また、単弓類の捕食者としての進化が、地球史上初めての複雑な四足動物支配の陸上生態系の形成と発展にどのように寄与したかを考察しています。 

 

Results and discussion(結果と議論): この章では、単弓類の顎の形態と機能の多様性と変遷を、主成分分析とクラスター分析によって作成した形態空間と機能空間において示しています。著者らは、単弓類の捕食者を三つの機能的摂食グループ(FFG)に分類し、それぞれがどのような顎の特徴と摂食モードを持っているかを詳細に説明しています。FFGは、細長い顎と長い歯列を持ち、獲物を掴んで保持することに特化した「捕獲型スペシャリスト(以下“捕獲型”)」(raptorial specialists)、顎の強度と咬合効率を高め、獲物の組織を切り裂くことに特化した「力強い剪断者(以下“力型”)」(power shearers)、顎の速度と柔軟性を高め、獲物に素早く噛みつくことに特化した「スピードスペシャリスト(以下“速度型”)」(speed specialists)です。著者らは、これらのFFGが単弓類の系統と時代との関係についても議論しています。 

 

単弓類の顎の形態と機能の進化は、以下のような時代的なパターンを示しています。

 

石炭紀後期:最初の単弓類は、細長い顎と長い歯列を持ち、捕獲型として分類されます。これらの単弓類は、小さくて抵抗の少ない獲物(昆虫や魚など)を捕まえて保持するのに適した顎を持っていました。この時期には、陸上の草食動物が多様化し始めていましたが、単弓類はまだそれらの獲物に対応していませんでした。

 

ペルム紀前期:単弓類は、顎の強度と咬合効率を高めることで、より大きくて強い獲物(他の四肢動物など)に適応しました。特に、スフェナコドン類は、力型のPBS(power bite specialist)として分類され、完全な陸上肉食動物としての特徴を備えました。この時期には、単弓類の中から、獣弓類(therapsids)という新しい系統が分岐しましたが、その多くはまだ化石記録に現れていません。

 

ペルム紀中期:獣弓類が多様化し、速度型のGRA(grip and rip attacker)と力型のSBS(shearing bite specialist)として分類される新たなFFGを獲得しました。これらの獣弓類は、顎の筋肉や歯の形態を変化させることで、獲物の組織を切り裂いたり、深く噛みついたりすることができるようになりました。これは、獲物を素早く仕留めるための適応と考えられます。この時期には、単弓類の祖先的な系統(バラノプス類やオフィアコドン類など)が絶滅し、獣弓類が陸上肉食動物の地位を独占しました。

 

ペルム紀後期:獣弓類は、さらに多様化し、力型のDSS(deep shearing specialist)と速度型のRLA(rapid light attacker)として分類される新たなFFGを獲得しました。これらの獣弓類は、それぞれ、極端に強力な咬合力や高度に特化した歯の形態を持ち、高度な肉食性を示しました。この時期には、異歯性や顎の構造が哺乳類に近づくシノドン類が出現しましたが、その多くは雑食性や草食性でした。この時期の終わりには、ペルム紀-三畳紀大量絶滅(PTME)が起こり、多くの獣弓類が絶滅しました。

 

三畳紀前期:PTMEを生き延びた獣弓類は、速度型と力型の両方のFFGに属しましたが、その多様性や大きさは大幅に減少しました。この時期には、単弓類は、双弓類(archosauromorphs)という新たな羊膜類の系統によって陸上肉食動物の地位を奪われました。双弓類は、単弓類とは異なる顎の形態と機能を持ち、その中から恐竜や鳥類が進化しました。

 

●Methods(方法): この章では、単弓類の顎の形態と機能の分析に用いたデータと手法について説明しています。著者らは、石炭紀後期から三畳紀前期にかけての122種の単弓類の下顎の化石標本を対象に、幾何学的形態計測学と標準化された機能的測定値を用いて、顎の形と機能の変数を計算しました。これらの変数を主成分分析にかけて、形態空間と機能空間を作成し、顎の多様性と変化を視覚化しました。また、クラスター分析と線形判別分析を用いて、顎の機能的特徴に基づいて単弓類をFFGに分類しました。さらに、系統比較法を用いて、単弓類の顎の形態と機能の系統的多様性と変化を時系列で追跡しました。 

 

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