中国南東部、前期白亜紀後期の2本の頬角を持つ新しい鎧竜

解説

 この論文は、中国東南部、江西省にある周田(Zhoutian)層から発見された新種の鎧竜であるDatai yingliangis(ダータイ・インリャンギス)を記載したものです。

●発見の経緯と化石の保存状態:この恐竜の化石は、2016年に道路工事中に発見され、2018年に中国の福建省の英良石材博物館に収蔵されました。標本は2体あり、亜成体ですが成長段階には違いがあります。頭骨の一部と胴体の一部がつながった状態で保存されており、頭骨はほぼ完全です。化石は、周田層の上部にあたる約9000万年前の地層から産出したと推定されています。周田層は、中国の江西省から広東省に分布する赤色砂岩の地層で、恐竜卵化石が多く発見されていますが、鎧竜の化石は初めてです。

 

●新種の特徴と命名:この恐竜は、鎧竜の中でもアンキロサウルス科に属すると考えられています。この恐竜は、他のアンキロサウルス科と比べて、以下のような特徴を持っています。

頭骨:鼻先が突き出し、前上顎骨のくちばしは丸くなっています。眼窩の前後には明瞭な切れ込みがなく、眼窩の直径は頭骨の長さの約20%です。頬骨と方形頬骨に2本の角があり、これは他の鎧竜には見られない特徴です。また、頭頂部には様々な形の骨質の鱗があります。

 

胴体:頸部には2つの半円状の骨質の輪があり、各輪には3つずつの鱗があります。背部には多数の小さく多角形の鱗があり、一定のパターンはないようです。尾の先端には骨質の棍棒があったと推測されます。

 

四肢:肩甲骨と鎖骨は不完全に保存されていますが、鎖骨の前縁は丸く、胸骨突起と関節窩の間は鋭く湾曲しています。これらの特徴はアジア産の鎧竜に共通しています。上腕骨と前腕骨は部分的に保存されていますが、肘の突起は高く細く、腕骨の幅とほぼ同じです。骨盤と大腿骨の一部も保存されていますが、系統的な比較にはあまり役立ちません。

 

 

命名:この恐竜は、これらの特徴から、新属新種としてDatai yingliangisと命名されました。Dataiという属名は、中国語のピンインで「”tongda”通達(理解する/分別がある)」と「”antai”安泰(安定している)」の最後の文字(音節)をそれぞれ合成したもので、達泰になります。種小名 yingliangisは、この化石を収蔵・展示していた英良石材博物館を含む英良企業集団ちなんでつけられました。ですから、この恐竜の中国名は英良達泰竜になります。

ただし、筆者は属名がつけられた経緯に疑問をもち調べたところ、英良企業集団内に英良達泰という石材加工会社を見つけました。もしかしたら、裏の意味で、この会社名をつけたことになるのかもしれません。

 

系統:アンキロサウルス科の中でもアンキロサウルス亜科に属し、アンキロサウルスやピナコサウルスなどの尾の棍棒を持つ種と近縁です。しかし、アジア産の鎧竜の中でも初期に分岐した系統であり、ピナコサウルスと姉妹群をなすと考えられます。また、中国浙江省産の鎧竜ジンユンペルタとも類似点がありますが、多くの形態的な違いがあります。

 

要旨

 アンキロサウルス亜科は、アジアとララミディア(北アメリカ西部)の白亜紀後期の陸上脊椎動物相を特徴づける象徴的な装甲恐竜である。このクレードの最古のメンバーは、アジアの後期白亜紀初期(セノマニアン〜サントニアン)から知られているが、解剖学的に派生した年代的に若い形態とどのように関連しているかについては、ほとんどコンセンサスが得られていない。中国南東部では、白亜紀の赤色砂岩層が浙江省から広東省にかけての盆地に広がっている。しかし、白亜紀後期初期に相当する地層のサンプル採取はまだ十分ではない。ここでは、コニアキアン/チューロニアン期の贛州層から産出した、脊椎動物、ましてや装甲恐竜の骨格標本としては初めて、Datai yinliangis gen. et sp. nov.を報告する。タイプ標本が未成熟な個体であるにもかかわらず、D. yingliangisは、頭蓋のcaputegulae(方形頬骨の二本角など)や広範な喉甲板の皮骨に固有派生形質があることから診断できる。形態学的には、アジア産の年代的に古いアンキロサウルス類(クライトンペルタやジンウンペルタなど)と、セノマニアン期以降のアンキロサウルス類(ピナコサウルスなど)の中間的な存在である。系統学的分析もこの評価をおおむね裏付けている。この新分類群は、アジアのアンキロサウルス類のうち、派生型の系統の近位に位置するか、ピナコサウルスと姉妹系統を形成するかのいずれかである。これらの洞察に基づき、Dataiは中国南東部の後期白亜紀前期の脊椎動物相に大きな足跡を残すとともに、アンキロサウルス類の起源と初期進化に関する理解を深める上で、この地域の将来的な可能性を浮き彫りにするものである。

論文 Xing, L., Niu, K., Mallon, J., & Miyashita, T. (2024). A new armored dinosaur with double cheek horns from the early Late Cretaceous of southeastern China . Vertebrate Anatomy Morphology Palaeontology, 11. https://doi.org/10.18435/vamp29396

 

要約

Introduction: この章では、鎧竜類の分類と系統に関する従来の研究を概観し、鎧竜類の多様性が最盛期を迎えた後期白亜紀(カンパニアン~マーストリヒチアン)に先行する”中期”白亜紀(アルビアン~サントニアン)の記録が不十分であることを指摘します。また、中国南東部の赤色砂岩層から産出した鎧竜類の化石が、この時代の鎧竜類の起源と初期の進化に関する貴重な情報源であることを紹介します。

 

Materials and Methods: この章では、新種の鎧竜類のタイプ標本として、頭骨と部分的な骨格を含む二つの個体(YLSNHM 01002とYLSNHM 01003)を記載します。これらの標本は、江西省会昌県の麻州村で道路工事中に発見されたもので、チューロニアン~コニアシアンの贛州層群の一部である周田層から産出したものです。この地層は、これまでに恐竜の卵化石が多数報告されていることで知られています。標本の形態学的特徴と測定値を詳細に記述し、他の鎧竜類との比較を行います。また、既存の系統解析のデータセットに新種の鎧竜類の特徴を追加し、最大節約法による系統樹の推定を行います。

 

Results: この章では、新種の鎧竜類にDatai yingliangisという学名を与え、その診断的な特徴を示します。この恐竜は、頬に二本の角を持つという鎧竜類としては独自の形質を有しています。また、他の鎧竜類との形態学的な相違点や共通点を検討します。系統解析の結果、この恐竜はアンキロサウルス科の中でアンキロサウルス亜科に属し、アジア産の初期の系統に近縁であることが示されました。特に、Pinacosaurusと姉妹群を形成する可能性が高いことが分かりました。

 

Discussion: この章では、新種のアンキロサウルス亜科の発見が、鎧竜類の進化と系統に関する複数の課題に対してどのような意味を持つかについて議論します。

Datai yingliangis の形態学的特徴: この新種は、頬骨と方形頬骨に2本の角を持つことで他の鎧竜と区別されます。また、前上顎骨が突出して鼻孔の前方部分が後方部分よりも長くなっていること、眼窩と鼻孔の間に隙間がないこと、頭頂部に明瞭な「後頭前骨」の鱗状骨があること、頸部の角が小さくて丸いこと、咽頭部に多角形で一様な鱗状骨がびっしりと覆っていることなども特徴的です。

 

Datai yingliangis の系統発生的位置: この新種は、アンキロサウルス科の中でも尾に棍棒状の突起を持つアンキロサウルス亜科に属します。系統解析の結果、この新種はアジア産の鎧竜亜科の中で、最も派生的な種である Pinacosaurus と近縁であることが示されました。また、この新種は、アジア産のアンキロサウルス亜科の中で最も新しい時代(白亜紀後期コニアシアン~チューロニアン期)に生息していたことが判明しました。これは、アジア産のアンキロサウルス亜科が白亜紀後期においても多様化し、進化し続けていたことを示唆しています。

 

 

Datai yingliangis の古生態学的意義: この新種は、中国南東部の赤色砂岩層から発見されました。この地層から初めて、アンキロサウルス科の化石が発見されました。この地域は、白亜紀後期において湖沼や河川が広がっていたと考えられています。この新種は、このような環境に適応していた可能性があります。この新種は、中国南東部の白亜紀後期の生物多様性や古生態系において重要な役割を果たしていたと考えられます。

リンク

恐竜パンテオン本サイト

 

グラファイトダイナソー

 山本聖士さんのサイト

 

「恐竜漫画描いてます」

 所 十三さんのブログ

 

半紙半生

 森本はつえさんのサイト