頭骨の高精細X線CTスキャンによる脳の復元により、飛行能力のある脳は、鳥類に近縁な非鳥獣脚類の段階ですでに用意されていたことがわかりました。
アメリカ自然史博物館の Amy M. Balanoff らの研究によるものです。それによると、始祖鳥
Archaeopteryx と同等あるいはより大きい、飛行に適応できる脳は、他のいくつかの非鳥獣脚類にも見られるそうです。始祖鳥はしばしば非鳥獣脚類と現生鳥類の中間的存在とも言われますが、脳に関しては、必ずしも中間的存在ではないということです。
では、その研究方法はというと、
(1) 獣脚類のうちでも最も原鳥類に近縁とされるトロオドン科、ドロマエオサウルス科、オビラプトロサウリア類、始祖鳥、現生鳥類(ダチョウ、キッツキ等)の頭骨をX線CTスキャンし、その内部を3次元復元しました。
(2) それぞれ体の大きさ(大腿骨長から推定される)に対する脳容積の割合を算出しています。このとき、脳の主な領域(嗅球、大脳、視葉、小脳、脳幹)ごとのサイズも求められています。これにより、進化の系統の中で体の大きさや脳全体の変化の中でどの領域がどう変化したか検討することができるようになりました。
その結果、体全体に対する脳容積の割合は、鳥類が高い結果が出ていますが、始祖鳥は非鳥獣脚類と他の鳥類の間に位置するのではなく、いくつかのオヴィラプトロサウリア類、トロオドン科のZanabazar junior などの方が高い値がでています。これは体全体に対する大脳の割合でも同じ結果が出ています。始祖鳥は鳥類と前述の非鳥獣脚類が含まれる範囲からはずれる結果になっています。
一方、始祖鳥の頭蓋より後方の骨格の解剖学的研究から、始祖鳥は飛行に適応していたとみなされています。もし、始祖鳥の脳が飛行に適応していたのなら、始祖鳥より脳の割合が大きい他の非鳥獣脚類も(飛行したかしなかったかにかかわらず)飛行に適応した脳ををしていたといえるとしています。
なお、これからの課題として、次のことがあります。
始祖鳥と他の鳥類の脳には終脳(the wulst)という領域があります。これは情報処理や駆動制御をし、飛行には欠かせない領域ですが、今回の研究では非鳥獣脚類では終脳は同定されませんでした。非鳥獣脚類には存在したなかったことが明らかになれば、始祖鳥と他の鳥類の共有派生形質になるのかもしれません。
Amy M. Balanoff, Gabe S. Bever, Timothy B. Rowe & Mark A. Norell (2013)
Evolutionary origins of the avian brain.
Nature (advance online publication)
doi:10.1038/nature12424 アブストラクト