鳥類の前肢の指に関する新研究

 鳥類の3本の指が恐竜のⅠ・Ⅱ・Ⅲ指になるのかⅡ・Ⅲ・Ⅳ指になるのか、議論が続いています。2011年の東北大学田村教授らの研究により、この問題は決着したものと思っていましたが、まだ研究は続いていました。

This is a photo of the schematic figure of birds' wings.©Brian Metscher
This is a photo of the schematic figure of birds' wings.©Brian Metscher

 ウィーン大学の理論生物学者 Brian Metscher らの研究です。以下は主にウィーン大学プレスリリースによって書きます。

 ここで鳥類の胚では発生初期に他の四肢動物と同様に第4指が最初に発生しているとしています。(東北大の研究とは異なる点で、東北大の研究では胚の発生初期に第4指として発生した指原基が後に指1つ分ずれて第3指として形成されるとしています)。そして、親指側に指が発生し始めるがすぐに消失する。したがって、鳥類の形成された指は第2・3・4指であること主張されるとしています。
 しかし既知最古の鳥類である始祖鳥は、その指が第1・2・3指であるとされる恐竜デイノニクスのそれに密接に関連するし、恐竜の祖先の系統から連続する化石からは、指の減少が第4・5指であったことが示されるため、Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・説を支持します。また鳥の1番目の指の活性遺伝子は、他の動物の第1指ではなく第2指の活性遺伝子に相当しています。

 この矛盾を解決するための有力なアプローチとして、(1)鳥類は結局恐竜の子孫ではなかった。(2)鳥類の祖先の恐竜もⅡ・Ⅲ・Ⅳの指だった。(3)3本の近位の指(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)はどうにかして胚の中ほどのポジション(Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ)に移動した(東北大の研究はこれにあたります)。が、あります。しかしどのアプローチも既存の全てのデータを説明できるものでないとしています。

 胚発生の中で指が形成されるためには、ソニック・ヘッジホッグという伝達タンパク質が働いているそうです。これはソニック・ヘッジホッグ遺伝子により産出されます。これにより四肢が形成されどの指も現れない前に後方(小指側)から決定されます。このことは、この伝達タンパク質の濃度は小指側が最も高く、引き続く指の濃度はだんだん低くなることを意味します。したがって、各指の前駆体はその遺伝子発現を調節し、その結果として表現型である指はソニック・ヘッジホッグの濃度に応じることになります。本研究では、利用可能な全てのデータを活用し、分子や生体力学的メカニズムに基づいた仮説を考案したとしています。

 この仮説は、以下のようなものです。恐竜の進化における後方の縮小は、実際に小指の退縮と消失を促進した。しかし、一般に内側の指(人差し指、中指、薬指)を退縮するよりも、外側の指を退縮するほうが、それらが発生のより後の段階で現れるため、容易である。そのため第1指が第4指のかわりに退縮し(親指のダウン)、成長していく他の指の前駆体のために前方(親指側)の領域を残す。このため残った指がⅠ・Ⅱ・Ⅲのように成長していくというものです。

 本研究の筆頭著者 Brian Metscherは、「この仮説は、始祖鳥と鳥類の指が、本当はⅡ・Ⅲ・Ⅳ指であっても、あたかもⅠ・Ⅱ・Ⅲ指であるかのような形態をしているかを説明する。同時にこの仮説は化石の知見とも、現在の発生遺伝学の結果とも一致している」と述べています。

 

Čapek, D., Metscher, B. D., and Müller, G. B.: Thumbs Down: A Molecular-Morphogenetic Approach to Avian Digit Homology. Journal of Experimental Zoology Part B (Molecular and Developmental Evolution), December 2013.
DOI: 10.1002/jez.b.22545 論文

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